「スタートレックと僕 そのよん ホントの完結編」

さて、いくら何でもそろそろ完結しなきゃってんで時期を見計らっていましたが、ちょうど今年も、スタートレックまるごと30時間放送なんて企画があるようで、それの特番に出演させてもらったついでに、このシリーズも完結編を。

前回までは読んで頂くとして、いきなり本題から入りますか!!

そしてそして、業界の噂でどうも「DS9」が再開するという話が聞こえてきました。
おぉ! 夢にまで見た再発進がついに、ついに現実のものとなるぞー!!!!!
早速事務所へ行って、最優先でリ・ニューアル「DS9」のスケジュールを押さえておいてくらさいねーとお願いしときました。
うふふふ、やっとだ、うれしいぞ。
このときの私は、寝ていても、歩いていても、ずっとニヤついていたに違いないのです。

しかーし! そんな私に、神はまたも試練を与えたもうたのです。

ある日、事務所に行くとデスクが暗い顔で私を見るではないか。
どうしたのかな?と聞くと、「DS9」の収録が始まることになったのだが、実はスケジュールの関係で出演が難しいというのだ。
エーーーーーー!!!! そ、そんなーーーーーー!!!! だよホントに。
ここまで待って、その仕打ちはないだろ。この世には神も仏もいないのか。
冗談じゃなく、そう思ったね、あたしゃ。
オーディションに落ちるとか、吹き替えたことのある俳優さんを、別の作品では他の声優さんが当ててるとかは日常茶飯事。それだってイヤだし悔しいけど、これまでやってきた番組のずっと演じてきた役を違う人に譲り渡さなきゃならないなんて、声優稼業だけでなく、役者にとって一番悲しいことです。しかも、あろう事か“スタートレック”の、おまけに何よりも大事にしてきた“ガラック”と別れるなんて、考えることすらできません。
まさにどん底に突き落とされた気がしました。

スケジュールの関係とは、新しく「DS9」を収録する曜日・時間がすでに別の仕事で埋まっているということです。これがまさにど主役で、オレを外したら番組ができないぜって位の役だったら私を中心に収録日も決まるのでしょうが、悲しいことにガラックは他の人から見たら、ただのセミ・レギュラー。向こうからしたら、あ、そうですか、駄目ですか、じゃあ他の人捜しますねってなモンです。
しかしそれじゃあ、あまりにもやりきれない。このままじゃ、一生後悔する。ましてや、スケジュールでかぶっている仕事は一月もすれば終わることがわかっている作品。

今まで、キャスティングに関してスタッフに何か言うなんてしたことはありません。が、背に腹は代えられない。というわけで、新しくディレクターに決定している方に、他の仕事で呼ばれた際、おずおずと控えめにでも断固としていったのです!
「あれ、どーなってますかねー?・・・」・・・・・・・

数日後、そのディレクターさんから事務所に「せっかくだから、一月ぐらい何とかするよ」と電話があったそうです。言ってみたのが幸いした?


こうして98年9月22日の第5シーズン最終話の収録から、丸3年!を経て2001年9月27日に第6シーズンの製作がスタートしました。
レギュラーは私と同じくスケジュールの関係か、二人ほど変わってしまったし、セミレギュラーにも変更が出ました。それでもまあ、始まっただけでもめでたしめでたしであります。
ではありますが、制作スタッフが変わるということは、実はいろんなところに影響していたのでした。まず、翻訳者が変わることで台本に書かれているそれぞれのキャラクターの言い回しが変わる。今まで丁寧語でしゃべっていた人が急にため口聞いたりするわけです。声が一緒でも、それでは全くの別人になってしまいます。
それにスタートレックは遙か未来が舞台のSFです。そりゃもういやってほど独自の単語・用語が出てきます。スタートレックの世界でしか使われない言葉の何と多いこと。固有名詞は問題なかろうと思われるでしょう。いやいや、それだって日本語に訳すのか訳さないのか、訳すならどう訳すか、訳さずにそのまま使うにしても、カタカナ表記は微妙に人によって違ってくる。大変です。

以前の会社には、長いスタートレック日本語制作の歴史があるので、会社内のスタトレマニュアルのようなものが存在しているという噂があります。これはこう訳すとか、これはこう表現するとか、翻訳者やディレクターのためにね。おまけに、「DS9」も5シーズンやったわけですから登場人物も多いし、シリーズをまたいで出演しているキャラクターまでいたりするわけですが、当然それをどの声優さんが当てているかなんてことはマニュアルなくたって記録があるのは当然のこと。わかんなきゃ聞きゃあいいじゃん。とか思うのですが、会社間のことは我々にはわからない。聞くわけにいかなかったのか、制作担当の人が単に聞くのが・・・・・・・・・・。

まあ、言葉や言い回しは収録時に修正できることではありますが、3年のブランクは出演者にも重くのしかかります。毎回これどう言ってたっけ。のオンパレード。こればっかりは新しいスタッフには分かりません。のちに、丹羽正之さんが監修についてくださることになって問題がなくなりましたが、最初のうちは自称トレッキーの私がやんなきゃだれがやる状態。(えーと、“トレッキー”って熱狂的なスタトレファンのことです。)第6シーズンの最初の台本をもらった時、大変ダーと叫んでこれはここが違う、これはこう言っていたと数ページにわたる訂正表を作っていったのを覚えています。交代して、新しく加わったレギュラー陣のためにも人間関係や物語の背景とか参考になるような情報をまとめたり。結構がんばったなぁ。

こうして幾多の困難を乗り越えて、「スタートレック・ディープスペース9」、2002年9月19日をもって無事に日本語版制作のフィナーレを迎えることができました。いろんな思いが交錯して、さすがに感極まるものがありました。
その後、最終エピソードのDVD用の追加収録をもって本当に「DS9」の収録がすべて終わりましたが、その時は、この番組そして“ガラック”との絆がこれで切れてしまうような気がして、悲しくなったものでした。

しかし、この作品を通じて業界の皆さんのみならず、日本におけるスタートレック・オーソリティといっても過言のない岸川靖氏をはじめ、小説版「DS9」の翻訳者にして、「DS9」の最終期および「エンタープライズ」の日本語版の監修を務められた丹羽正之氏、小説版「ヴォイジャー」の翻訳者の山口智子女史など、そうそうたる方々と懇意にさせていただいていることに幸福を感じています。
最近では、岸川さんとの縁から僕にとっては永遠のカーク船長・矢島正明さんと親しくお話しする機会を何度かもてたことと、あの「宇宙大作戦」のミスターカトー(原語ではミスタースールー)ことジョージ・タケイさんにインタビューできたのは一生忘れられません。ちなみにその時ジョージさんに通訳としてついていたのは、前述の山口女史でした。

そうそう、外画作品としてはきわめてめずらしいイベントが、博多・大阪・東京で開かれて楽しい時を過ごしたのも一生ものの思い出です。

長年続いたスタートレックシリーズもしばしの休息をとっていますが、すでに新しい劇場版の情報も少しずつ伝わってきています。
きっとスタートレックという作品が忘れ去られる日は、永久にないでしょう。
僕とスタートレックとの関わりも、いろんな形で死ぬまで続いていることと思います。


文字通り、

『長寿と繁栄を』 Live long and prosper.









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